【自己紹介】私の研究・興味のある分野について ~病的函数って何?~(数学専攻M2)
今期も学修相談スタッフを担当することになりました.私の担当日時は,
さて,今回は自己紹介ということで,私の研究内容及び興味のある数学の分野について簡単に話したいと思います.
私の専攻している分野は偏微分方程式論というもので,その中でも特に粘性解理論と呼ばれるものを中心に研究・勉強しています.また,病的函数と呼ばれるものにも興味があり,大学院では粘性解理論と病的函数を中心に様々な事柄を日々学んでいます.今回はこの「病的函数」と呼ばれるものについて簡単にお話したいと思います.
「病的函数」とは,読んで字の如く「病的な振る舞いをする性質を持った函数」のことです.ここでいう「病的」とは,「 $\mathbb{R}$ 上のすべての点で連続だがすべての点で微分不可能である」という性質のことで,「我々の直観に反する挙動を起こす函数」と捉えてください.但し,$\mathbb{R}$ は実数全体の集合を表します.また,「連続」とは函数のグラフが切れ目なく繋がっていると捉えて貰って構いません.多くの人は高校の数学Ⅱという授業で初めて微分というものの概念を学び,様々な函数の微分を計算すると思われます.そこでは,基本的に微分が計算できる函数(=微分可能な函数)をメインに扱い,微分不可能な函数はあまり登場しませんでした.(唯一, $f(x)=|x|, x \in \mathbb{R}$ などが登場すると思われます.) 数学Ⅲを履修していた人なら,
という性質も学んだと思われます.直観的に言うと,微分できるような滑らかな点では必ずグラフは繋がっているということです.他方,この定理の逆は常には成り立ちません.その反例が先程も述べた $f(x)=|x|,x \in \mathbb{R}$ です. この函数は原点 $x=0$ で連続であるが微分不可能となっています.病的函数は「 $\mathbb{R}$ 上のすべての点で連続だがすべての点で微分不可能」なので,この反例の中で最も強いものであると捉えることが出来ます.
では,実際に病的函数の例を見てみましょう.以下で紹介するのは,ドイツの数学者・K.Weierstrass(1815-1897) による例です.
$a$ を $3$ 以上の奇数,$b \in (0,1)$ を $ab > 1+ \frac{3\pi}{2}$ をみたすものとします. 函数 $u:\mathbb{R} \to \mathbb{R}$ を, \[ u(x) = \sum_{j=0}^{\infty}b^{j}\cos(a^{j}\pi x), \quad x \in \mathbb{R} \] で定義します.$\cos$ の無限級数で表現される函数です.この $u$ は,
このWeierstrassによる函数の例以外にも,日本人の数学者・高木貞治(1875-1960) による例である高木函数などが挙げられます.高木函数については,また次の機会に紹介したいと思います.上で述べたように,「微分可能 $\Longrightarrow$ 連続 」は成り立ちますが,その逆は常には成り立ちません.しかし,高校で学ぶ微分法の授業や,大学の「微分積分学」の講義では,殆どの場合,微分可能な函数ばかりを扱います.(函数の微分の計算が出来ることが目的なので,当たり前といえば当たり前ですが...) そして,いつの間にか私たちは「連続函数は有限個の点に注意すればそれ以外では微分可能となる」という直観を持つようになると私は思います.その直観的な考えを覆したのが,上で紹介したWeierstrassの函数です.この辺りのより詳しい話はまた次回の機会にしたいと思います.Weierstrassや高木函数などの病的函数など,このような極端な例を考えて研究することは,函数が,微分不可能な点でどのような振る舞いを起こすかについての本質に迫ることを意味します.上記の病的函数のように,数学の議論では極端な例を考えることでその性質の本質や限界に迫ることがしばしば行われます.そしてそれは非常に面白いことであると私は思っています.
以上が私の研究・興味のある「病的函数」という分野の簡単なお話でした.より詳しい話を聞きたい方は,ぜひ図書館学修相談ブースにお越しください!!