【 $\varepsilon$-$\delta$ 論法って何? #02 】~私の研究・興味のある分野について⑤ ~

こんにちは。数学専攻M1の松岡です。
ようやく先週から雪が積もり始めましたね。昨年,一昨年と富山では積雪が非常に少なく, 何となく雪は積もらないものだと錯覚していました。私の出身地は神戸で, 雪が積もらないどころか降ることさえ稀で初めて富山に来た年の冬はたいそう感動したのを覚えています。今年初めて富山に来る雪国出身以外の一年生にアドバイス…という訳ではないですが, 靴だけはきちんとした防水の物(または長靴)を買っておいたほうが良いかも知れません。(融雪機の放水にも気を付けてください...。)

では, 前回に引き続き「私の研究・興味のある分野について」ということで, $\varepsilon$-$\delta$ 論法についての続きを話していきたいと思います。

前回までの内容はこちらです
・$\varepsilon$-$\delta$論法って何 #01?~高校までの極限の定義との比較~

実数列 $\{a_{n}\}_{n=1}^{\infty}$ が $\alpha \in \mathbb{R}$ に収束するとは, \begin{align*}\tag{$\ast$} {}^{\forall}\varepsilon>0, \ {}^{\exists}N_{\varepsilon}\in \mathbb{N} \quad {\rm s.t.} \quad {}^{\forall} n \in \mathbb{N}, \ n \geq N_{\varepsilon} \quad \Longrightarrow \quad |a_{n}-\alpha| < \varepsilon \end{align*} を満たすことでした。前回の内容を踏まえて, 高校までの極限の定義と比較してみましょう。高校までの極限の定義では,「限りなく近づく」という言葉を用いて定性的に極限を定義しているのに対し, この定義(*)ではそれを定量的に表現して定義しています。 この定義($\ast$)をきちんと見ていきましょう:
まずこの論理式で書かれた定義 $(\ast)$ を噛み砕いて説明すると,
$(\spadesuit) \qquad$ "あなたが"好きに指定した正数 $\varepsilon$ に対して, 必ずその $\varepsilon$ に応じた番号 $N_{\varepsilon}\in \mathbb{N}$ が決まり, その番号 $N_{\varepsilon}$ より先の全ての自然数 $n$ に対して, $|a_{n}-\alpha|< \varepsilon$ が成り立つ。
となります。
最後の $|a_{n}-\alpha|<\varepsilon$ は, $a_{n}$ と $\alpha$ との差が限りなく小さくなることを表しています。
このかみ砕いて表現した$(\spadesuit)$と, 高校までの定義を比較すると
"$n$ が限りなく大きくなるとき" $\longleftrightarrow$ "ある番号 $N_{\varepsilon}$ があって, それより先の $n$ では"
"$a_{n}$ が限りなく $\alpha$ に近づく" $\longleftrightarrow$ " $a_{n}$ と $\alpha$ の差 $|a_{n}-\alpha|$ が好きに指定した $\varepsilon$ で抑えられる"

となり, 対応していることが分かります。更に, 高校の定義まででは"限りなく"と表現していた曖昧な部分がきちんと埋められていることが分かります。
実際に, $a_{n}=\frac{1}{n},n \in \mathbb{N}$ という数列を例に考えてみましょう。直感的には, \[ \lim_{n \to \infty}\frac{1}{n}=0 \] となりそうですね。勿論, 高校までの定義ではこれを証明することは出来ませんでした。では, $\varepsilon$-$\delta$ 論法でこれが正しいことの証明を与える前に, 先程定義をかみ砕いて表現した $(\spadesuit)$ を用いて, 対応する部分がどうなるかを考えてみましょう。
"あなたが好きに指定した正数 $\varepsilon$" ということで, まずは $\varepsilon=1$ としてみましょう。このとき, この $\varepsilon=1$ に応じた番号 $N_{1}$ を見つけて, $N_1$ より先の番号 $n$ では $|\frac{1}{n}-0|=\frac{1}{n}<1$ を満たすようにしなければなりません。今の場合は, $N_{1}=2$ と決定すれば, $n\geq 2$ を満たす全ての自然数に対して, \begin{align*} \Bigl| \frac{1}{n}-0 \Bigr|=\frac{1}{n} \leq \frac{1}{2} <1 = \varepsilon \end{align*} が成り立ちます。
今の $\varepsilon=1$ の場合では, $a_{n}$ と $\alpha=0$ の差を $1$ で抑えることが出来ました。しかし, これでは $a_{n}$ と $\alpha=0$ の差が限りなく $0$ に近づいたとは言えません。もっと $\varepsilon$ を小さくしてみましょう。
$\varepsilon=\frac{1}{100}$ とすると, この $\varepsilon=\frac{1}{100}$ に応じた番号 $N_{\frac{1}{100}}$ を見つけて, $N_{\frac{1}{100}}$ より先の番号 $n$ では $|\frac{1}{n}-0|=\frac{1}{n}<\frac{1}{100}$ を満たすようにしなければなりません。今の場合は, $N_{\frac{1}{100}}=101$ と決定すれば, $n\geq 101$ を満たす全ての自然数に対して, \begin{align*} \Bigl| \frac{1}{n}-0 \Bigr|=\frac{1}{n} \leq \frac{1}{101} <\frac{1}{100} = \varepsilon \end{align*} が成り立ちます。
何だか, $\varepsilon$ に対して番号 $N_{\varepsilon}$ をどのように決定すればよいか摑めてきましたね。同じように考えると, $\varepsilon=\frac{1}{1000}$ に対しては $N_{\frac{1}{1000}}=1001$。 $\varepsilon=10^{-64}$ に対しては, $N_{10^{-64}}=10^{64}+1$ と選べば良いことが分かります。
問題は, あなたが指定したどんな $\varepsilon>0$ に対しても必ず $N_{\varepsilon}$ を作り出すことが出来るということです。 この考え方をより厳密にしたものが $\varepsilon$-$\delta$ ($\varepsilon$-$N$) 論法になります。

※これは, あくまでもアイデアでありきちんとした証明ではないことに注意してください。

次回の #03 では, このアイデアをもとに, きちんとした証明はどうやって与えるのかを紹介したいと思います。また, なぜこの厳密な定義が必要なのかについてより詳しく述べたいと思います。