【私の研究・興味のある分野について #2】~微分不可能な函数のお話~(数学専攻M2)

こんにちは。数学専攻M2の松岡です。今回はタイトルの通り, 私の研究・勉強の興味のある分野について簡単に紹介したいと思います。前回紹介したものに続く第2弾となります。前回のお話は こちらから見られます。

さて, 今回の本題は「具体的な微分不可能な函数を作ってみよう」です。前回の記事では, 実数上のすべての点で微分不可能な函数を紹介しました。この例の函数はすべての点で連続なのにすべての点で微分出来ない訳ですから, 微分可能性としては強烈に悪いものだと捉えることが出来ます。今回はその橋渡しとして, 微分可能性がまだ幾分かマシな微分不可能函数も含めて紹介します。

以下では, $\mathbb{R}$ を実数全体からなる集合とします。また, 考える函数はすべて $\mathbb{R}$ 上で連続なものとします。つまり, すべての点でグラフが繋がっているものとします。(本当の所, 連続の概念をきちんと定義する為には, $\varepsilon-\delta$ 論法と言われるものが必要になります。その話を聞きたい人は是非ブースまでお越しください!)

皆さんが「連続だが微分不可能な函数の例を挙げよ」と言われて最初に思いつく函数は何でしょうか。多くの人は, \[ f(x) = |x|, \quad x \in \mathbb{R} \] という函数を思いつくと思われます。この函数は $\mathbb{R}$ 上のすべての点で連続だが原点 $x=0$ で微分不可能になります。このグラフを見てみると, 次のようになります:
原点 $x=0$ で下に尖っていることが分かります。ある点 $x=a$ に於いて微分可能とは, その点 $a$ で接線を引くことができ, それが唯1本に定まる状態だと捉えることが出来ます。今の場合は, 原点 $x=0$ で下に尖っているせいで, 下からも上からも接線が決まりません。 従って, この $f$ は原点 $x=0$ で微分不可能となります。

では, もう少し我儘な要求をしてみましょう。今度は1点と言わず, 複数個の点, いや, $x= \cdots, -3,-2,-1,0,1,2,3, \cdots $ のような無限個の点で微分不可能になる連続函数を作ってみましょう。ポイントは, 微分不可能な点では尖っていて, 下からも上からも接線が当てられないということです。このアイデアを念頭に置いて, 微分不可能な函数を構成していきましょう。実際, \[ f(x) = |\sin(\pi x)|, \quad x \in \mathbb{R} \] としてみましょう。このとき, $f$ は $\mathbb{R}$ 上すべての点で連続だが, 整数上の点 $x= \cdots, -3,-2,-1,0,1,2,3, \cdots $ で微分不可能になります。
3角函数 $\sin$ のグラフを, 整数上の点で尖るように折り曲げて周期をイジったものです。この函数は無限個の微分不可能な点を持ちます。実は, ここで単純に「無限個の点」と書きましたが, これは集合論の言葉で言う「可算個の点」の意味です。同じ無限でも「非可算」という無限の概念があるのですが, ここでは言葉の紹介のみにします。(この話を詳しく聞きたい人も是非ブースにお越しください!)

ここまでの話を振り返ると, (可算個の意味で) 無限個の点で微分不可能な連続函数を作るのはそこまで難しくなかったように思えます。

それでは, 次の疑問として「$\mathbb{R}$ 上のすべての点で微分不可能な連続函数は作れるのか?」が考えられます。この疑問に答えるために誕生したのが「病的函数」です。前回の記事のこちらでも触れています。この「 $\mathbb{R}$ 上すべての点で連続だが微分不可能」という性質をもった病的函数は世の中には沢山存在します。その例として, Weierstrass函数 \[ W_{a,b}(x) = \sum_{n=0}^{\infty}a^{n}\cos(b^{n}\pi x), \quad x \in \mathbb{R} \]
や, 日本人の数学者・高木貞治による例 \[ T(x) = \sum_{n=1}^{\infty}\frac{d(2^{n}x)}{2^{n}}, \quad x \in \mathbb{R} \] の高木函数があります。


以上で微分不可能な函数の紹介は終わりですが, この一見奇妙で特異な病的函数がなぜ現代数学で重要になるかや, 対応する自然現象は存在するのかなど, 興味のある方はぜひ相談ブースまでお越しください。 病的函数について深くお話をしましょう!